治療中でも見えにくい裏側矯正、表側矯正とはどう違う?

裏側矯正は、歯の裏側に矯正器具を装着するため、人前に出るときにもあまり気にならない矯正方法です。1980年代前半頃からアメリカ、日本などで普及していったものの、当時は歯の裏側に矯正器具を装着することが技術的に難しかったこともあり、十分な治療結果を出せないこともあったようです。

しかし、現在では技術や器具の改良も進み、以前よりも精度の高い治療ができるようになってきました。裏側矯正の最大の特徴は、見た目をあまり意識することなく矯正治療ができることですが、一方では、表側矯正と比べて欠点もあります。今回は裏側矯正と表側矯正を比較して、どのように違うかをご紹介していきましょう。

裏側矯正の歴史と地域性

1980年代に広がりを見せた裏側矯正。意外にも矯正先進国のアメリカではなく日本で最初に開発されました。これには歴史的背景もあります。アメリカにおいては歯並びがきれいであることは大変重要なことであり、矯正治療は美しい歯列を実現するために当然必要な治療だと認識されています。さらには、矯正治療を受けられる人は裕福、歯並びが悪いままの人は貧困層であるという暗黙の証しとも言われています。ですから、矯正器具を装着していることを隠す必要はなく、わざわざ裏側の矯正装置を開発する必要性がなかったのです。対して日本はワイヤー矯正に非常に強い抵抗を感じる人が多く、何とか目立たないで矯正治療を受ける方法はないかという需要は大変多かったようです。日本で最初に裏側矯正が生まれたことは必然だったとも言えます。しかし、当時は画期的な矯正方法として、アメリカでも多くの歯科医師が導入していました。しかし、先ほど述べたとおり歯の裏側での調整が難しく、矯正装置が大きいために違和感が強い、、治療期間が長く、仕上がりも決して高くないなど、技術面での問題から普及が進むことはありませんでした。日本においても裏側矯正を提供する歯科医師は非常に少なかったようです。

 時代は流れ、2010年代にはいると、コンピューター技術の進化とともに矯正装置の設計や治療方法に多くの改善が行われました。その結果、違和感の少ない小さな形状の矯正装置が開発されたり、裏側でのむつかしい調整を簡単にする開発が多くのメーカーで行われ、今では多くの歯科医院で裏側矯正が提供されるようになりました。

 

 話はそれますが、これまでアメリカでは矯正治療のためにワイヤーを歯に装着することは全く問題にされていなかったはずなのですが、今では、多くの患者がインビザラインなどのマウスピース矯正を希望するようになっています。マウスピース矯正はただ目立ちにくいだけでなく、歯磨きがしやすいとか違和感が少ないなどのメリットはたくさんありますが、やはり何といってもワイヤーが見えないため、審美性が高い矯正装置として有名です。マウスピース矯正が流行していることを考えると、アメリカ人もやはり目立つ矯正装置は本当は嫌がっていたのかもしれません。そういった意味では日本の矯正治療の方がアメリカよりも進んでいたと考えられるかもしれません。

裏側矯正と表側矯正との違い

数十年の歴史のなかで進歩を重ねてきた裏側矯正ですが、通常行われている表側矯正と、どのような点が違うのでしょうか。いくつかの視点から比較してみましょう。

外見上の違いと技術的な問題

外見上の違いは、もちろん、矯正器具が見えやすいか見えにくいかの違いです。人前に出ても矯正器具が見えにくいということが、裏側矯正の最大の特徴と言ってもよいでしょう。

しかし、見えにくいということは、治療するときにも見えにくいということです。それに加えて、裏側矯正用の矯正器具は構造が複雑になっています。通院で調整するには、表側よりも高度な技術が必要ですし、時間も多くかかります。

費用と治療期間の違い

高度な技術を必要とし、時間がかかるのは、調整のときだけではありません。裏側矯正の矯正器具は、個人の歯に合わせてオーダーメードで製作します。これは、歯の裏側が表側と比べて凹凸が大きく、人によってその凹凸の形が違うためです。矯正器具をオーダーメードしないと、歯に密着させて装着することはできません。矯正器具を製作するためにはコンピューター解析といった技術が必要ですし、1か月から2か月間の製作期間がかかります。

このように、裏側矯正は器具の製作や通院時の調整に時間がかかったり、高度な技術が必要となったりします。そのため、表側矯正と比較して、治療期間は半年から1年間ほど長くかかり、治療費用も割高になります。

口の違和感や滑舌の問題など

口の中に矯正器具を入れると、表側の場合も裏側の場合も、やはり違和感があります。その違和感は相対的に裏側矯正の方が強く出る傾向にあり、それに加えて滑舌も悪くなります。これは、裏側に器具があり、そこに舌が引っかかるためで、表側矯正にはあまり見られない現象です。

この違和感や発音のしにくさには数週間から1か月程度で慣れてきますが、違和感が大きい場合もあります。特に下の歯列での裏側矯正では違和感がかなり強くなります。違和感が心配な人は上の歯列だけ裏側で、そこまで人から見えない下の歯列は表側にするハーフリンガル矯正が良いかもしれません。

矯正治療中に起きるそのほかの口の中のトラブルとしては、虫歯や歯周病があります。矯正器具が装着されているため、ブラッシングがうまくできないことが主な原因となります。

裏側矯正の場合は表側よりも唾液に触れやすく、免疫機能もある唾液によって汚れが洗い流されるため、表側よりも虫歯の予防効果は高くなります。一方で、唾液にはカルシウムが含まれており、これが固まることで歯石ができるため、表側よりも唾液のたまりやすい裏側への矯正の方が歯石による歯周病のリスクは高まります。

表側矯正と裏側矯正はどちらが良いのか

ご説明してきたように、表側矯正、裏側矯正とも、どちらにもメリットとデメリットがあります。しかし、裏側矯正は進歩したとはいえ、まだ発展途上の治療です。表側矯正に比べて、まだ改善点が多くあるのも事実です。歯科大学や歯学部付属病院においては、裏側矯正治療はほとんど採用されていないことからも、発展途上の治療だということは推察できるでしょう。

もちろん、裏側矯正にも治療の有効性はあり、外見上分かりにくいという大きなメリットがあるのも事実です。そして、その大きなメリットを取り入れた「ハーフリンガル」という治療方法もあります。

ハーフリンガルは、外見上目立ちやすい上の歯列だけを裏側矯正とし、目立ちにくい下の歯列は表側矯正にする矯正方法です。下の歯列を裏側矯正にする治療は、前述したように器具が舌に当たって違和感が大きく出る可能性がありますが、ハーフリンガルであれば違和感を減らすことができ、上の歯列に関しては矯正器具が見えにくくなります。なおかつ、裏側矯正は上の歯列のみなので、トータルの治療費用も抑えることができます。

表側矯正、裏側矯正、そして、それを組み合わせたハーフリンガル矯正のいずれも、症状に合わせた綿密なカウンセリングと治療計画が必要不可欠です。それぞれのメリット、デメリットを慎重に検討して、担当医師と相談し、よりよい治療を実施していきましょう。

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